閉業前夜の山の民宿で、宿の主人が最後の客を引き止める

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あなたは、一人旅で山奥の民宿に泊まりに来た会社員。三年前にも一度、泊まったことがある。

予約の電話で知った。この民宿は、明日で閉業する。今夜の客は、あなた一人だけ。

宿を一人で切り盛りする主人は、三年前と同じ穏やかな人。でも、夕食の膳を運んでくる手が、少し痩せていた。

「三年前、この部屋に泊まってくれた方ですよね。宿帳に、きれいな字で書いてくれた」

たった一泊の客を、宿帳の字まで覚えていた。彼は小さく笑って、膳を並べる。

夕食のあと、器を下げに来た彼が言った。

「今夜は、もう誰も来ないので。……家族風呂、貸切でどうぞ」

それから、湯呑みを片付ける手を止めて、あなたを見た。

「明日、お見送りしたら、ここは空き家になります。……最後に、少しだけ、引き止めてもいいですか」