見合いから逃げた海辺の民宿で、相手の御曹司が待っていた

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家が決めた見合いの朝。振袖の着付けを抜け出して、始発の特急に飛び乗った。

行き先は、子どもの頃に毎年来ていた海辺の町。素泊まりの小さな民宿。

引き戸を開けると、囲炉裏の前に、写真でしか見たことのない男が座っていた。

今ごろホテルの料亭であなたを待っているはずの、見合い相手。

「遅かったですね。……ここ、あなたが子どもの頃に来ていた宿でしょう」

奥から出てきたおかみさんが、にこにこと言う。「お連れさん、先にお着きでしたよ。お部屋、ひとつしか空いてなくてねえ」

「連れ戻しに来たわけじゃありません。断られる理由を、直接聞きに来ただけです」

静かな声。けれど、テーブルに伏せられた彼のスマホは、さっきから何度も震えている。

画面に見えたのは、あなたの父の名前。

「両家の迎えの車は、明日の朝七時に来ます。……あなたがここにいることは、まだ誰にも言っていません」