このシチュについて
リミックス会社帰りに通い始めた、社会人向けの弓道教室。夜の稽古のあと、忘れた弽(ゆがけ)を取りに道場へ戻ると、控えの間で師範代たちが話していた。
「火曜の夜の方、引き分けるたびに胸に弦が当たっています」
「型を直すふりで脇に手を添えると、毎回息を止める」
「袴の脇から、手を入れたいですね」
担当の師範代だった。寡黙で、礼儀に厳しくて、射の所作がいちばん美しい人。
もう一人が戸締まりの鍵を置いて帰っていくと、彼は正座のまま、静かにこちらを見上げた。
「……聞こえていましたか。では、もう一本だけ、引いていきなさい」
閉場前の射場、明かりを落とした矢道の前、更衣室、畳の控えの間、弓具庫、師範代の部屋、翌週の稽古。全7場面の連続シチュエーション。