大正の山村で鬼に襲われた夜、剣士が『夜明けまで俺の背から離れるな』

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大正の終わり。奉公先からの帰り道、峠の手前で日が暮れた。

提灯の火が揺れて消えた瞬間、竹林の奥から、人の声を真似る何かが私の名前を呼んだ。

振り向く前に、刀の鍔鳴りがした。

黒い詰襟に羽織の男が、私の前に背中を向けて立っている。足元には、灰になって崩れていく影。

「まだ二体いる。……あんた、走れるか」

首を振ると、彼は小さく舌打ちして、私の手首を掴んだ。藤の花の香る古い宿の土間へ引き込み、戸に閂をかける。

「夜明けまであと二刻。俺の背から離れるな」

握られた手首が、まだ熱い。